不器用な僕たち
大学に入学してから、私は、涼ちゃんがいつも飲んでいたエスプレッソを口にしてみた。
お化粧することを覚えて、ファッションも少しだけ大人になって。
それなのに、エスプレッソはあの頃と同じようにとても苦くて、たった一口飲んだだけだった。
たっぷりのミルクを入れたラテにしないと、飲めない。
しかも涼ちゃんが淹れてくれた、エスプレッソ・ラテじゃないと飲めない。
涼ちゃんを『どこかの誰かさん』呼ばわりして、散々悪態をつくくせに、私はいつも涼ちゃんを探している。
そして、見つけ出したあと、私は決まってそんな自分を後悔してしまう。
エスプレッソ・ラテだってそう。
涼ちゃんが淹れてくれたものじゃないと飲めない。
分かっているくせに、適当に見繕った彼氏と一緒に訪れる喫茶店でオーダーするのは、毎回エスプレッソ・ラテ。
『――ちがった……』
一口飲んだあと、涼ちゃんのものとはまるで味が違っていて。
どう考えても、バリスタが淹れる方が美味しいはずなのに。
私は、涼ちゃんのエスプレッソ・ラテじゃない、と、いつも残していた。