不器用な僕たち

メンバーが現れた瞬間に、客席から歓声が沸き起こる。

そしてその歓声は、最後の一人が現れると、地を割るような大きな歓声へと変わっていった。


最後の一人。

ベルマリのボーカル・涼。


久しぶりに見た、間近で見た涼ちゃん。

テレビや雑誌なんかじゃない、今にも手が届きそうなほどの距離にいる。

なのに、私と涼ちゃんのあいだには、見えない大きな壁があるようにも思えた。


ずっと、ずっと、好きだった。

会いたくて、しかたなかった。

思えば私には、涼ちゃんだけだった。


「……千亜紀?」


ノリのいいオープニング。

観客の誰もが曲に合わせて飛び跳ねたり、唄ったりしているなか、最前列にいるくせに私は突っ立ったままだった。


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