不器用な僕たち
涼ちゃん、気づいて。
私、ここにいるよ?
思いを断ち切ろうとしているくせに、場内の隅々にまで目を向ける涼ちゃんに対して、必死にそう願う。
涼ちゃんの視線は、一度たりとも、最前列には向けられない。
時折ギターの浩平くんと目が合うような気がする。そんな錯覚に陥るくらいだった。
何曲か唄ったあとの、最初のMC。
久しぶりに聞く、涼ちゃんの話す声。
堪え切れなくて、涙がポロポロと溢れ出した。
「――ごめん、もう帰る」
隣にいる雅人に言うと、
「もう帰るのか?」
驚いてはいたけれど、私を止める様子などまるでなかった。