不器用な僕たち
後方の観客の邪魔にならないように、私は身を縮めながらブロックの間にある長い通路へと出た。
『もう帰るの?』
観客のそんな視線を感じながら、私は場内中央の出入り口ドアまで足早に歩く。
「えー、ここでみなさんに報告があります」
ドアノブに手をかけた瞬間。
涼ちゃんの声とともに、どよめき立つ歓声が、立ち去ろうとする私を止めた。
振り返ると、ステージ上の涼ちゃんはすごく小さく見えて。
涼ちゃんの表情をはっきりと見ることはできない。
しばらく間を置いたあと、涼ちゃんは場内が静かになるのを待って口を開いた。
「……実はですね、結婚しようと思っています」
瞬間。
場内から、耳をつんざく様な黄色い歓声が沸き起こる。