不器用な僕たち

後方の観客の邪魔にならないように、私は身を縮めながらブロックの間にある長い通路へと出た。


『もう帰るの?』

観客のそんな視線を感じながら、私は場内中央の出入り口ドアまで足早に歩く。



「えー、ここでみなさんに報告があります」


ドアノブに手をかけた瞬間。

涼ちゃんの声とともに、どよめき立つ歓声が、立ち去ろうとする私を止めた。

振り返ると、ステージ上の涼ちゃんはすごく小さく見えて。

涼ちゃんの表情をはっきりと見ることはできない。


しばらく間を置いたあと、涼ちゃんは場内が静かになるのを待って口を開いた。


「……実はですね、結婚しようと思っています」


瞬間。

場内から、耳をつんざく様な黄色い歓声が沸き起こる。


< 155 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop