不器用な僕たち
「……涼……ちゃん?」
それは、私のこと?
涼ちゃんはマイクを場内に向けているかのようにも見えた。
観客は、涼ちゃんのプロポーズの相手がどこにいるんだろうと、周囲をキョロキョロと見渡している。
私はドアノブをもう一度握りしめて、ドアを開けた。
そしてドアの向こう側に立つと、ステージ上にいる涼ちゃんに向かって、力の限り大きな声で叫んだ。
「私も大好きだよ!! 永久就職させてください!」
言ってすぐ、私はものすごい勢いでドアを無理やり閉め、逃げるようにしてライブ会場を飛び出した。
涼ちゃんが、私の声だと気づいたかどうか分からない。
あんなに広い会場で、しかも、プロポーズなんて。
ふざけたファンが叫んだと思われたかもしれない。
それに……、あの言葉が本当に私に向けられていたのかさえも確信が持てなかった。