不器用な僕たち
言いかけた浩平の口を塞ぐように、僕はミネラルウォーターの注がれたコップを彼に押し付けた。
「あぁ……。悪い、もう古傷には触れないでおくよ」
「別に……」
僕は自分の分のミネラルウォーターを一口飲むと、きっぱり言い切った。
「別に、傷にもなってねぇよ。あんなこと」
そう。
僕と千亜紀のことを知る人間は誰もが口を揃えて言う。
『古傷』だの『トラウマ』だの。
でも、当の本人の僕には傷ひとつ付いていない。
むしろ、良かったと心の底から思える出来事だったんだ。