不器用な僕たち
営業職というハードな仕事と、人気バンドのボーカリスト。
二束のわらじを履く兄貴をもつ俺は、ほんの少し鼻が高かった。
Belgian Malinois(ベルジアン・マリノア)。
ファンの間では『ベルマリ』と略称されている。
長ったらしいこのバンド名。家で飼っているベルジアン・マリノアという犬の名前をそのまま付けたんだ。
千亜紀は兄貴のライブに行きたがっているけれど、中学生の千亜紀がライブに行くことを兄貴本人が禁止している。
高校生になったら解禁になるらしい。
でも千亜紀は、兄貴に隠れて変装までしてライブに行っている。
千亜紀は「バレなかった!大成功!」と喜びながら帰って来るけれど、実際のところ兄貴には毎回バレていて、いつも兄貴から大目玉を喰らっていた。
千亜紀は兄貴のことが好きで好きでたまらないけれど、兄貴からすれば10も年の離れた幼なじみなんて、はっきり言って妹扱いだ。
「千亜紀のことどう思う?」
千亜紀に憎まれ口を叩きながらも、俺は密かに千亜紀に協力している。