不器用な僕たち
◆涼 side◆
◆涼 side◆
アトラスに送った1本のデモテープにはちゃんと意味が込められていた。
仕事や学校とバンドマン、二束のわらじを履き続けたベルマリ。
本気でプロを目指していたわけでもなく、ただ漠然と「なれるといいな」とぐらいにしか思っていなかった。
社会に出て、これまでのお気楽な学生生活とは違う厳しい現実。
「どちらかを諦めよう」と下した決断。
メンバーの誰もが、デモテープを送った時ベルマリの『終わり』を確信した。
あの頃は楽しかったなと思い出話に花が咲き、仕事に慣れてきた頃にはまた集まって軽くやってみようと笑い、僕たちは別れた。
だけど、あの夜……。
血相を変えて家にやって来たバンドのリーダー・浩平が全くの予想外の話を始めた。
『えらい気に入られてさ、デビューしないかって』
『俺、アトラスから呼び出しかかって、何回か会って話をしたんだ。黙っといてすまん。もし話が流れた時に、がっかりさせたら悪いと思って』
かなり話が進んでいたことにビックリしていた僕に浩平は申し訳なさそうに頭を下げた。