不器用な僕たち
千亜紀に対して、彼女が望むような気持ちを抱くことがこの先あるのだろうか。
そんなこと、僕自身でさえも分からない。
こうして隣りに座っても、明日から千亜紀と離れ離れになる生活を送ることになるのに、僕は何も感じなかった。
翌日が平日ということもあって、空港に向かう僕を見送ったのはお袋と、千亜紀のお母さんだけだった。
「涼ちゃん、頑張ってね!おばちゃん、若い人の聞く曲なんてよく分からないけど、涼ちゃんたちのCDだけは絶対買うからね!」
「涼、身体に気をつけるのよ?」
2人に見送られて、僕はタクシーに乗り込んだ。
今度帰ってくるのはいつなんだろうと、20年近く慣れ親しんだこの街に別れを惜しむように、窓の外を眺め続ける。
まるで思い出を回想させるかのように、タクシーは、僕が卒業した小学校・中学校・高校・大学の前を順番に回っていく。
通り過ぎるたびに、それぞれの時代を思い出す。
――……どうして。
僕の頭に次々と蘇る思い出は学校でのことではなく、千亜紀と過ごした日々のことだった。