不器用な僕たち

『雅人にセーター編んでいたのに間に合わなくて。……あたし、プレゼント何もない。どうしよう。ごめん……』

『どうしてもあげたい時計があったのに、買いに行ったら売れた後だったの。他のお店も回ったんだけど、どこにも売っていなくて……』


そう涙ぐむ彼女を、俺は笑って「気にするなよ」と抱きしめた。


でもさ、結局さ。

時計もセーターも俺の手元に届くことはなかった。

逆に、そんな物が本当に存在していたのかさえも分からないまま、俺は彼女に別れを告げられたんだ。


「なによ、しんみりしちゃって。昔の苦い思い出に浸ってるの?」


切ないような、バカらしいような、キツネにつままれたような思い出。

千亜紀の言葉で現実に引きずり戻される。


「浸るわけないだろ」

「またまたぁ」


千亜紀がニッと笑いながら身を乗り出した瞬間、一階にいるお袋が俺を呼ぶ。


「……雅人ー!涼から電話だけど話すー?」

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