不器用な僕たち
俺と千亜紀は顔を引きつらせながら「久しぶり!」なんて心にもないことを言う。
初めての東京の第1日目。
兄貴が鈍感だということを俺は初めて知った。
夜。
兄貴と浩平くんはギター片手に練習を始める。
歌う兄貴の姿にうっとりしている千亜紀の顔には、さっきまでの怒りの表情はない。
なんだよ、その緩みきった顔。
ふつふつと沸き起こる苛立ち。
何でこうも苛立つんだろう?
千亜紀は兄貴と目が合うたびに、はにかみながらうつむく。
一度も俺には見せたことのない表情。
そして、ふと俺と目が合うと、千亜紀はまるで「何も見ていない」というような顔つきで自然と目を逸らす。
この違いは何ですか?千亜紀さん。
笑いかけてくれてもいいだろう?
……兄貴は『好きな人』で、俺は『幼なじみ』。
そりゃ、格の違いは分かってるけどさ。