不器用な僕たち

俺と千亜紀は顔を引きつらせながら「久しぶり!」なんて心にもないことを言う。


初めての東京の第1日目。

兄貴が鈍感だということを俺は初めて知った。



夜。

兄貴と浩平くんはギター片手に練習を始める。

歌う兄貴の姿にうっとりしている千亜紀の顔には、さっきまでの怒りの表情はない。


なんだよ、その緩みきった顔。

ふつふつと沸き起こる苛立ち。

何でこうも苛立つんだろう?


千亜紀は兄貴と目が合うたびに、はにかみながらうつむく。

一度も俺には見せたことのない表情。


そして、ふと俺と目が合うと、千亜紀はまるで「何も見ていない」というような顔つきで自然と目を逸らす。


この違いは何ですか?千亜紀さん。

笑いかけてくれてもいいだろう?


……兄貴は『好きな人』で、俺は『幼なじみ』。

そりゃ、格の違いは分かってるけどさ。

< 53 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop