不器用な僕たち

「どうしたんですか?」



少し沈んだ表情にも見えた望月さんに声をかける。

望月さんは僕をちらりと見て、またうつむく。


嫌な予感…――。

それは口を開いた彼の言葉で的中した。



「…ゼロなんだ」

「えっ?」

「客がいないんだ」

「…客が…ゼロ?」



開演まであと10分。

それなのに観客がいない。


この東京で知名度もない僕たちのデビューライブ。

客が少ないことぐらい覚悟していたけれど……。

それがたった1人の客さえもいないなんて。

< 58 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop