不器用な僕たち
お袋の声を聞いた千亜紀の表情が一瞬にして険しくなる。
さっきまで俺に憎たらしいことを散々言い続けていた勢いがあっという間になくなった。
「あぁー!話すー。すぐ行くー!」
そうお袋に言った後、俺は千亜紀に「ちょっと待ってて」と言い、机に向かってノートの切れ端にペンを走らせた。
そして、切れ端を窓伝いに千亜紀に渡す。
「久しぶりに声聞けば?じゃあな」
そう言って俺は一方的に窓とカーテンを閉めた。
いつもなら兄貴からの電話は無視しているけれど、今日は話をしないといけない。
いや、話というより報告だ。
――兄貴。
千亜紀のやつ、また新しい男ができたんだぜ?
兄貴のこと『どこかの誰かさん』呼ばわりして、今の男と比較していたぞ?
なぁ、兄貴。
未だに現在形の気持ちを抱えているのはあんただけなんだよ。
千亜紀はもう、兄貴のことなんか何とも思っちゃいねぇよ。