不器用な僕たち

「いいじゃん、ゼロで!だってさ、超有名シンガーだって、デビューライブに客がいなかったって言うぜ?」

「…でもよ…」

「きっと、後々売れるってことの前兆なんだよ」



浩平の言葉に僕もまた賛同した。



「そうだよ。大々的なデビューして一発屋で終わるより、地味なデビューして頂点に上りつめた方がいいじゃないか」

「…言われて見ればそうだな」



……そうだよ。

そう…だけど……――。


………………。

………………。


客がいない、事務所の関係者が2、3人いるだけのデビューライブ。

ライブというよりも、リハーサルみたいなものだ。

空席の客席に向かって繰り広げる、空しいMC。

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