不器用な僕たち
「千亜紀」
千亜紀が言いかけた瞬間、僕は千亜紀が何を言おうとしているのか察しがついて、わざと言葉を重ねた。
「ライブの話か?」
「…うん」
「聞きたいか?ライブな、客ゼロだったんだよ。ゼロだぜ?笑えるだろ?」
……僕は、とんでもなく情けない男だ。
これじゃ、八つ当たりじゃないか。
ストップをかけないといけないと分かっているのに、話し出したら止めることができず、次々に言葉があふれ出す。
「望月さんが頑張って客引きしても来なかったんだよ。誰もいない、数人の関係者がいるだけのライブだったよ」
「涼ちゃ……」
「そんな中でさ、『今日はありがとう』なんてMCしたんだぜ?これはリハーサルかと思ったけど、違うんだよ。ライブ本番なんだよ」
次第に千亜紀の目は潤んできて、瞬きした瞬間に自然と涙が頬をすべり落ちる。