不器用な僕たち
千亜紀を好きなのだと気付いたばかりの今は、千亜紀の口からこぼれる兄貴の話なんて聞きたくもなかった。
「そうそう、涼ちゃんが事務所に言ってくれたんだよねー。この前、電話で涼ちゃんが……」
「悪ぃ、千亜紀。俺、日直だから先行くわ」
「えっ?ちょっと待ってよ!」
のんびり歩いていた千亜紀を残して足早に歩き始める。
横断歩道の信号が青から赤に変わっていたけれど、千亜紀を撒きたくて、俺は強引に渡った。
渡り終えてホッとした瞬間……。
「雅人ー!待って……」
俺を呼ぶ千亜紀の声が聞こえたかと思うと、その声は何かが爆発したような大きな衝撃音であっという間にかき消されてしまった。