不器用な僕たち
◆涼 side◆
◆涼 side◆
全国ツアー4日目は、僕たちの地元のふたつ隣りの県だった。
今日の公演が終わったら明日は1日オフだから、実家に帰るつもりでいた。
デビューライブの時とは比べものにならないくらいの満員の客席。
こんなにもたくさんの人たちが来てくれたと、感謝と感激で胸がいっぱいになり、ツアー初日、僕たちはステージで懸命に涙をこらえていた。
ありがとう…ありがとう…。
何度も何度も言葉にするけれど、まだまだ足りないくらいで。
曲間のMCでデビューライブでの惨状を話すと、客席から笑いがこぼれた。
本当に笑い話になったなと、僕たちも一緒になって笑った。
「やべっ、俺の大事なマリーがいねぇぞ?」
リハーサルを前に、ベースの智也が『マリー』と呼んでいる大事なピックを探していた。
『マリー』とはベルマリ結成の頃からの付き合いで、智也はとても大切にしていた。