子うさぎのお世話

ナツと保健医

教室から出た棗は保健室の前に立っていた。


「……失礼します」


礼儀正しく断って、ゆっくりとドアノブを回した。


フワリ…と消毒薬の匂いが漂ってくる。


「……これは五十嵐さん。どこか具合でも悪いのかな?」


「……どうも」


目的の人物は、驚くこともなく、
にこやかに棗を迎えた。


「……具合と言うより機嫌が悪いね?」


まるで全てお見通しだとでもいうように……。


「先生、うさとハルにちょっかい出すの…止めてくれません?」


ならば…とズバリ核心をついてやった。


英彰はクスクスと笑い


「……ストレートだね。君のことも嫌いじゃないなぁ」


楽しそうに言った。


「あたしは嫌いです。…ハルに何か吹き込んでるでしょう?あたし、見ましたから」


雪兎を保健室に連れて行ったあの日……。


棗は英彰と時春の会話を偶然聞いたのだ。


『おまえにあの子は幸せに出来ないよ…。壊してしまう前に…解放してあげなさい』



優しく囁くまるで毒みたいな甘い声音で………。



棗はみるみる青ざめていく時春を見た。




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