子うさぎのお世話
――――ザワ……!!
急に周りがどよめきたった。
雪兎も何事かと思わず顔を上げようとして――
「…うさ!」
「………!!」
懐かしすぎるその呼び方――この呼び方をするのは、たった一人だけ……。
10年前よりずっと低く、艶を帯びた甘い低音に
身体中が心臓になったみたいに、全身がバクバクいってる気がして…雪兎はぎゅっと真新しい制服の胸元を押さえる。
お願い。
神様…
どうか、幻じゃないって教えてください……。
勇気を振り絞ってぐっと顔を上げる。
「………っ!!」
身体が震えた。
雪兎の視線の5メートル先に
ずっとずっと
焦がれていた人が立っていた。
180は軽く超えているだろう長身に引き締まった体躯……
高い鼻も少し薄めの形よい唇も…見れば見るほどうっとりするような男前だ。
艶やかな黒髪がさらりと風に揺れて、同じ色の二重の切れ長の目が雪兎だけを見つめていた。
周囲は自分達よりよほど落ち着いた雰囲気を醸し出すこの美形の存在にざわついていたようだった。
「…ただいま。」
彼がゆっくりと両腕を広げる。
「………っ!」
雪兎は弾かれたように駆け出していた。
目一杯手をのばして、
――――迷うことなく腕の中に飛び込んでいた。
力強いその腕が
雪兎をしっかりと抱き止めた。