月と太陽
銃声━━

『少女』が立っていた。



広い部屋、高い天井、シャンデリア、火の灯らない暖炉。

『少女』は動かない。



大きなテーブル、色鮮やかな果物、無造作に散らばる椅子、煙、ガラス片。

『少女』は足元を見つめている。動かない。



壁はレンガとやわらかい白、絨毯は赤。
赤というよりは紅、紅よりも静脈を流れる血。

『少女』の黒い靴の先に広がる黒い海。





死体を見下ろす『少女』の微笑みには、温度があった。

死体を見下ろす『少女』の目には、産まれたばかりの我が子を包むような優しさがあった。

死体を見下ろす『少女』の透けるように白い頬には、溢れ落ちた筋があった。



『少女』の薄い唇が微かに動く。



「…ありがとう」



息だけの声は、外の終わらない怒号に消された。


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