月と太陽
カビと埃の匂い。
横たわる状態で目覚めた美月は、両手と顔のザラザラとした感触を払い、体を起きあげた。
闇。静寂。正面に微かに見える扉。
━ええっと…
美月は思い返す。
里果の店でパンケーキを…いや、違う。仕事だ。片桐から聞いて…、いや、猪狩のマンションに張り込んでいて…、
そうだ!琴音は!?
美月は左右を確認した後、振り返った。
僅かな光が上部から漏れていて、よく見れば四角いスペースであることがわかった。
漏れた青白い光。雲間から射し込む陽の光のような直線。
ゆっくりと舞う粉塵。青白い光と床の接地面、壁際に尻をつき寄りかかりうなだれる格好の人影。
「あら、美月ちゃん目が覚めたのね。」
…!!
青白い光とは違う、左側からの声に美月は瞬時に顔を向けた。
突然の音に全身の毛穴が開く感覚のまま美月は緩やかに巻かれた栗色の髪を見た。