踊れ その果てで
<戒(カイ)、仕事だよ>

「少しくらいゆっくりさせろ」

 聞き慣れた若い男の声に眉を寄せる。

<仕方ないだろ>

 簡素に言い放ち切られた通話に再び舌打ちをした。

 色あせた肩までの黒髪と、赤が濃く映し出された黒い瞳は、まるで血が固まったような印象を与える。

 男は、かけられている薄い生地で作られた草色のコートを奪うように掴み、部屋をあとにした。

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