踊れ その果てで

 歩きながらヘッドセットを装着し、扉の前に立つ。

 いつでも浮かぶのは、かつての恋人の微笑み──救えなかった自責の念が襲う。

 戒が悪い訳ではない、あれは仕方のない事故だった。

 彼が特殊部隊に勤務していた頃、日本を離れる仕事に就いた時だ。

 彼女が出かける時は、いつも戒が車の運転をしていた。

 彼がいない時は、彼女は自分で運転するのだが、彼女が両親の家に向かう途中、対向車線を走っていた車が信号無視で右折してきた。

 彼女はそれを避けきれず、まともに相手の車と衝突したのだ。

 帰ってきた戒に見せられたのは、冷たくなった恋人の遺体だった。
< 33 / 110 >

この作品をシェア

pagetop