踊れ その果てで
「あんたが悪い訳じゃない。でも、恨まずにはいられないんだ」

 彼女の父が言った言葉は、戒の胸に突き刺さる。

「菜都美(なつみ)」

 綺麗に整われた遺体の頬に、指を滑らせた。

 艶やかだった背中までの黒髪に輝きは無く、ハリのあった肌は青白い。

 漆黒の宝石を思わせる瞳にも光は失せ、冷たいまぶたに隠されていた。

「──っ」

 戒は声にならない叫びを上げ、力なく崩れ落ちる。

 それから数ヶ月後、彼女の両親は菜都美の後を追うように病気で立て続けに亡くなってしまった。

 父は最後に「あの時はすまなかった」と言い残して息を引き取った。
< 34 / 110 >

この作品をシェア

pagetop