踊れ その果てで
◆第3章~命の探求
*苦い記憶
恋人がジョークで買ってきた無害タバコ──それを吸った彼の姿に、彼女は笑顔を見せた。
「うん、すっごくカッコイイ」
それから何度か吸っているうちに習慣づいた。
恋人が死んでからもその習慣は消える事はなく、むしろ苦い記憶を塗り固めるように吸い続けた。
タバコを手にすれば脳裏に浮かぶ記憶。
こびりついたその記憶に顔をしかめながら、まだ忘れたくないとでも言うように火を付ける。
そのなめらかな肌も、艶のある髪の感触も愛を語る美しい声もまだ覚えている。
それが、自分を追い詰めている記憶だという事も──それを充分に解っていても、忘れたくはなかった。