キスしかいらない
ほっぺをふくらませたハナちゃんは、ハンガーを差し出してきた。
「ジャケット、貸してください。向こうに掛けとくから」

こういうところがかわいい。
思わず笑ってしまいそうになる。

「ありがとう」

ジャケットを差し出すと、ハナちゃんは真っ赤な顔で少しだけほほえんだ。


その後の夕飯は豪華だった。
俺の好物ばかり用意してくれたのがわかる。
「お、天久くん。いらっしゃい」
「おかえりなさい、お父さん」
「おじゃましてます」

おじさんも帰宅して、賑やかな食卓が始まった。

この家に来ると、いつもホッとする。
俺の家族も仲は悪くないけれど、自分勝手の集まりだから
めったに全員揃って夕飯を食べたりしない。

それに慣れていた俺は、初めてこの家で夕飯を食べた時に
こんなにも楽しい食事があるのかと、少し感動したくらいだ。

そう、初めてハナちゃんに会った時は、まだ小学校に入ったばかりだったんだ。







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