キスしかいらない
「天久さんのばか」
きっといま、私はひどい顔。
「・・・ごめん」
困ったように言う声が優しくて、
涙がポロポロこぼれた。

「ハナちゃんがあんなふうにからかわれて、嫌になるのはわかるよ」

ちがう。

「もちろん、ハナちゃんのことだけが理由で理事長になったんじゃないんだ。家の事情もあるし・・・」


涙が止まらなくて声にならない。

「だから・・・気にしないで」


天久さんの笑顔を見ると、我慢できなくなる。
大人になるまで、言わないでおこうって思ったきもちを。

「ちがう」
「え?なにハナちゃん」

頭をぶんぶん振った。

「言ってほしかったの」

止まらないよ、天久さん。


「私のためって。言ってほしかったの・・・だから」

お願い。

天久さんは一瞬驚いたようだったけど、いつもの微笑みとちがって、真顔になった。
そして、ぎゅっと。
抱きしめてくれたんだ。
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