身長差(仮)
これまで、小学校でのクラブも、同じだった。
一緒に、バスケクラブに入ったり、卓球クラブに入ったり。
何をするにも、運動系のクラブ。
運動神経は、目茶苦茶良いわけじゃないのに、黒崎は、運動が大好きだった。
だから、歌が好きなんて、全然知らなかった。
言ってくれなかったのが、すごく嫌だった。
もやもやして、心は曇る。
この気持ちも、何なのかわからない。
「そうなんだ……」
結局、一緒に帰ることになった。
「ねぇ、なんで歌が好きなの?」
「……好きな、ロックバンドがいてさ」
「うん、うん」
何故か、とても興味深い話だった。
「そのバンドの歌詞が、すっげぇ良くて」
相槌をうちながら、彼の話を聞いた。
「共感出来たり、人生って、楽しいことばっかじゃないって思った。
それに、人を愛するって、大事なんだなって……」
黒崎が、愛する、なんて言うので、思わず笑いそうになった。
すんでのところで、必死に堪える。
「それを歌で伝えれんだったら、俺もやりたいって、思ったんだ。
カッコイイし、憧れたから」
「そうだったんだあ」
案外、まともだった。
いくらこんな人でも、“モテるから”とか、そんなとこだと思っていたんだ。
「結城ってさ、運動好きなの?」
肩からずり落ちた鞄を、背負い直しながら、彼に聞かれた。
「うん、楽しいから」
「今は、陸上部だっけ?」
「あはは、遅いんだけどね」
コツン、と私の額を小突いた。
「な、なに?」
「俺より速いくせに」
「生意気言うなよ」と言い、私の頭を、乱暴に撫でた。
髪の毛は、容赦無く乱される。
「ちょっと、髪くしゃくしゃじゃん!」
そう言いながら、二人で笑った。
こんなに笑うの、久しぶりだな……。
オレンジの空の下で、嬉しく思った。