糸を手繰って
糸を手繰って
ある朝、目が覚めたら、右手の小指に赤い糸が巻き付いていた。


なんだこれ。


部屋着がほつれた訳ではない。


よく見ると結び目はなく、指から15cmほど先で途切れている。


それも“切れている”というより“見えなくなっている”という表現の方が正しいかも。


取ろうとしても糸に“触れる”感触がない。


奇妙な糸。


とりあえずお母さんに聞いてみよう。


リビングへと向かってドアを開けるなり口を開いた。


『おかあさーん。あたしの指がおかしいんだけど!』

キッチンに立っていたお母さんが振り返って言った。


『ミチカなーに?おはようも言わないで。せっかくマコトさんもいるのよ。あいさつしなさい?』


テーブルに視線を移すとマコトさんがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。


『あ!お父さん久しぶりだね。おはよう。』


『おはよう。ミチカ、“久しぶり”だなんて淋しいコト言うなよー。1週間ぶりだから仕方ないけどなぁ。』


『そうそう。出張ばっかりだから居ないことに慣れちゃったよーん。』


『まったく。ユウカなんて涙流して抱きついてきたぞ?』


『はいはい。お母さんもよくやるよ。ごちそうさま。いつまでもラブラブって子供としてはビミョーなんですけどー。』
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