幻想ロマンティック

「おはよう、ございます」


「‥‥邪魔、俺はお前と違って朝早いんだよ」


「ご、ごめんなさいっ」


バンッと私を壁に押しのけると、お兄さんの海君は重たそうな革の鞄を持ち上げ深緑のフレームの眼鏡を直すと家を出て行った。


押された肩を撫でていると、お母さんが心配そうな目で私を見つめていた。


「おはよう、お母さん!」


「‥さっきの海よね?あの人達、美姫にきつく当たるわね?‥次ひどいことしたら、絶対に許さないわっ」


朝から苛立っている母を宥めながらリビングに行くと、私は真新しい制服のスカートを揺らす。


深い青のチェックスカートは、とても綺麗だ。


「おはようございます」


「‥おはよう、随分遅いんだね?普通は母親と同じくらいに起きないかい?」


朝から小言を言われ、ぐっと堪えていると陸君が後ろからやってきた。


「おはよう、何そんな所に突っ立ってんの?早く座ったら?美姫って、邪魔だよね」


「ご‥めんなさい」


「あなたたちいい加減にしなさいよ!私達が再婚してから小言ばっかり!厭味しか言わないじゃないっ、美姫が何したっていうの!康弘さんも康弘よっ!」


激高した母が怒鳴ると二人は冷めた目で母を睨むが、それは一瞬にして申し訳なさそうな表情へと変わった。


「すまない、女の子だから料理くらい出来ないと後々困ると思ってね‥美姫、ごめんね?」


「僕も‥つい意地悪しちゃった、可愛いからいじめたくて」


「‥いえ、私が‥私が悪いんです朝から嫌な思いさせてすみません‥では行ってきます」


逃げるようにリビングを出ると、私は鞄を肩からかけて学校へと向かった。



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