あなたの傍で…

―ガラッ


病室のドアをそっと開けた。


するとそこには真実ちゃんの姿はなく、いたって普通にベットに座っている麗央の姿があった。


「あ…あれ、真実ちゃんは？」


「帰った。」


「でもっ！れ…渡くん…の様態が急変したって…。」


一瞬、麗央の名前を呼びそうになった。


「…。桃。ごめんな。」


「え？」


私の聞き間違えかな…。


でもっ、今確かに「桃」って言ったよね。


「桃…ごめん。俺のせいなんだ。」


「れ…麗央っ。な…ｳｯ…なんで…記憶喪失なんじゃ…ﾋｸｯ」


「本当は記憶喪失なんかじゃなかったんだ。」


「えっ！でも…頭打ったって。」


私は突然の麗央の発言に混乱した。


「落ち着け！ちゃんと話す。聞いてくれ。」


「えっ…うん…。」


麗央の真剣な表情に私はなんとか落ち着いた。


「事故って頭打ったっていうのは本当。でも記憶喪失っていうか…桃のことを忘れたふりしたのは…嫌われるためなんだ。」


「え？」


「俺、桃のこと今も好きだ。ずっとこれからも永遠に。けど引っ越す前日に親が明日引っ越すから準備しとけって言ってきて。桃に言おうとした。けど桃の笑顔みてたらさ言えなくなっちゃって…。」


「そ…そんなっ。」


「言い訳だって自分でも分かってる。だから俺は引越し先の近くでバイトして金貯めて一人暮らしして桃の傍にいられるように自力で頑張ろうって思ったんだ。」


「わ…私のため？」


「あぁ。バイト仲間を話してるときに偶然商店街で桃に会って…冷たくて寂しそうな目をしてた。今更、桃の腕を掴んでおやじから助けようとしてもいいのか戸惑った。」


「あのときの…。」


「青木から全部聞いたよ。おやじたちと遊ぶようになったわけ。」


「え？」


「俺と同じ。」


「え…えと…。」


「俺も桃を嫌いになろうと思った。自分が楽になるから。けど忘れられなかった。嫌いになれなかった。好きだから。だから決めた。桃に嫌われようって。」


「あ…。」