春風が通りぬけるとき。


「田原」

「?」

「萌を泣かせたりしたら、許さないんだからね!」


田原は驚いたように目を見開き、真帆はというと、凄く意地悪そうな表情をしていて。


「じゃああたし、帰るから」

「は? おい!」


彼の真帆を呼ぶ声を完璧に無視して駅の方へと走り出した。

彼女の脳裏には、先程彼が幸せだと言った時の笑顔が蘇る。

はたして真帆は気付いているのだろうか。

一筋の、涙が流れ落ちていることに。


(…よかった)


ふたりが幸せになってくれるのならば、真帆が彼を吹っ切ったかいがある。

彼女が涙を零した理由は、嬉しかったからなのか、それとも。


幸せそうな様子に、羨ましかったからなのかもしれない。



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