春風が通りぬけるとき。
そんなことを働かない頭で今までのことを軽く振り返りながら、ボーと虚を彷徨いもするが、制服に素早く着替える。
誰もいない家。
両親共々、朝は早く帰りは遅い。
だから小さい頃から慣れていた、ひとりには。
でも慣れていたからこそ、恋をしてからこの生活に寂しさを感じる様になってしまったのかもしれない。
朝ご飯もそこそこに、今日も行きたくない学校へ行く為、鞄片手に重い足取りで家を出た。
見慣れた光景のひとつの空は青く晴れ渡っており、色とりどりの車も、人も行き交じっている。
しばらく歩みを進めていると、あるふたりが目に入った。
「でね? 聞いてよ、風太ー!」
「聞いてるって」
遠目でも分かる、ふたりの背中。
笑顔で話し掛けている萌と、苦笑いしながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべている田原を容易に想像出来てしまう。
そんな自分が嫌でたまらない。