春風が通りぬけるとき。


ハァハァ、と自分の息遣いと心臓の音がやけに大きく聞こえる。


(……さっきの、あの表情)


ふたりが浮かべていた、心から心配している様な顔。


(…違う)


している様な、じゃない。ふたりは心配しているんだ。


ふっとぎこちない笑みが零れる。

心配してくれて嬉しいのか、それとも哀しいのか。

それは彼女でさえ、分からない。

ただ今真帆を支配しているのは、なんとも言えない空虚感だけ。

まるで他人事の様な、呆然とした様な感覚。


そしてその感覚が続いたまま、ゆったりとそれまでの経緯を思い出し、やっと頭が理解する。


(あぁ…、ふたりに、目が腫れているのを気付かれてしまったのか)



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