春風が通りぬけるとき。


「……もうすぐ授業が終わるわ。そしたら戻りなさい」

「はい」


優しく言われ、彼女は大きく頷く。


「今のうちに、顔を洗ってきた方がいいんじゃないかしら?」


涙のあとを見られたくないでしょう?と尋ねられ、苦笑いしながらまた首を縦に振った。


「先生、本当にありがとうございました」


もう一度、深く深く礼をする。


「また、何かあったら来なさい。相談にのるわ」


その言葉が嬉しくて、今日一番の笑顔を彼女に向けると、振り返らずに保健室を後にした。



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