春風が通りぬけるとき。
「……井上、平気か?」
そう訊ねてくる田原に笑みを張りつけたまま頷く。
「……そうか。何かあったら言えよ」
「…うん、ありがとう」
(優しいね、田原)
まぁでも、田原が優しいのは今に始まったことではない。
今朝は情けない顔を見られ、一時間目は保健室で過ごしたのだ。
ふたりは心配するだろう。
彼は踵を返し、話しこんでいる男友達のところへ向かおうとする。 田原、と彼女はそれを引き止めた。