春風が通りぬけるとき。
曲がり角を渡ったところで、やっと人影が現れる。
「……田原」
ポツリ、聞き取れない程小さな声での呟きが漏れた。
「…悪い、待たせて」
そう言った彼は微かに息が上がっている。
(……走ってきてくれたんだ)
そのことが、ちょっぴり嬉しくなった。
「…それで、話ってのは?」
早速本題に入ってきた。
真帆は緩んだ頬をキリリと引き締める。ふぅ、と深呼吸してから瞑っていた目をゆっくりと開く。
開いたその目は今までのどんな彼女よりも不安げで、実に真剣味を帯びていた。