春風が通りぬけるとき。
(…そうだろうね)
夢にも思わなかっただろうね。
彼の中には萌の友達とか、クラスメートとかそういう認識しかしてなかったはずだ。
困るのも無理はない。
しかも相手はただのクラスメートではなく、自分の彼女の親友にあたる子なのだから。
それから少しの間、沈黙がこの場を支配していた。
短い、けれどもふたりにとってみればそれは、とてつもなく長く感じる。
(……言わなくちゃ)
いつまでこうしていたってしょうがない。
口を開こうとした時、それよりも彼の方が数秒早かった。
「…ごめん」
いつもの声より、ひとつ低い。
田原は申し訳なさそうな表情を浮かべる。