春風が通りぬけるとき。
パクパクと口の中に食べ物を無言で押し込んでいく。
ひとりでいるリビングは広く感じられ、時計の針が動く音しかしない。
だからこそ、この世界には彼女ひとりしか存在しないのではないかと思わせた。
食べ終わったのだろうか、箸を物音たてずに置き、手をあわせる。
「…ごちそうさまでした」
静かに立ち上がり、食器を綺麗に洗うと元の棚に片付けた。
ふぅ、と特別意識したわけでもないのにため息が出る。
(とりあえず、目を冷やすか…)
氷で、と思考がいきとどいた時、それでは駄目だと首を振る。
(氷じゃあ、冷たさ超えて痛くなる)
今は冬だ。
折角、頭痛が止んできたのに氷をのせたせいで復帰されたらたまったもんじゃない。