たる

「キャッ」

 藍原馬鹿野郎独裁者は、僕に抱きついた。
 おい、離れろ。こっちも怖いんだからな。

「大丈夫だよ。風で閉まっただけだよ」

 んなわけないな、と自分で思いながらもドアノブを捻る。―開かない。

「開かないじゃない!!第一、ドアが閉まるぐらいの風が吹いたなら、気づくわよ!!バカじゃないの!?」

 知らんがな。そんなに怒鳴るなよ。
 藍原馬鹿野郎独裁者はその後も僕に八つ当たりをして――黙った。
 黙ったまま、床に座って一点を見つめていた。
 普段、あんな強気な藍原馬鹿野郎独裁者が、閉じ込められたぐらいでこんなに弱くなるのか。今度、教室に閉じ込めてやろう。
 僕は弱味を握ったようで、嬉しくなった。

「あんた」

「はい」

 急に声をかけられたので、びっくりして体が跳び跳ねた。

「あんた、何で私がここに来てたのか気にしてたよね?」

「うん」

 今となっては、それもどうでもいいけどね。

「何でか、教えてあげてもいいわよ」

 ただし土下座しなさい、と言う勢いの威張った様な口調だった。

「別に、いいよ。気にしてないし」

 土下座なんかしてたまるか。

「だったら、何で聞いたのよ」

「話すこともなかったし、怖いし―」

 あなたが。
 僕はてっきり、怒られるか、嫌味の一つでも言われるかと思った。

 でも違った。藍原馬鹿野郎独裁者は、落ち込んだような口調になった。

「話すことがない…か。そうよね。私なんかと、話したくはないよね」

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