たる



――そして僕は負けたのであった。

「はあ」

 僕はため息をついた。
 肩をおとし、猫背な姿勢になり、廃屋の中に入ろうとした。その時―

「ねえ」

 女性の声がした。
 僕は跳び跳ね、瞬時に後ろを振り返り、悲鳴をあげた。

「よるな、お化け!!」

 手を顔の前にやり、僕は出来るだけその女性の姿を、見ないようにした。

「僕は単なる罰ゲームで……遊びじゃないんです!!」

 恐怖がどんどんと溢れる。心臓の鼓動が激しくなり、僕は必死に命乞いをした。

「ちょっと、誰がお化けよ」

―え?

 その声は、聞いたことがある声だった。
 興奮していた頭が、急激に落ち着いていくことが分かるほどに、僕は冷めていった。
 僕は、女性をみた。

「藍原?」

 そこに立っていたのは、同じクラスの女子だった。
 ちなみに遅くなったが、僕は高校生である。

 藍原は、同級生にしては大人びた顔をしていた。
 脇まで伸ばした黒い、艶のある髪。頭もよく、スポーツも万能である。
 しかし、恋人がいるという噂は、一つも聞いたことがない。
 それは―

「びっくりした。急に石橋がいるんだもん。それに、声をかけた瞬間、あひるのように騒ぎ出すし。てか、あの騒ぎ様は、尋常じゃなかった。あんたまさか、怖がりなヘタレ野郎?キモッ」

 この性格が問題になっていた。
 黙っていれば、それはそれは可愛い姫様の様だった。
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