たる
〇
――そして僕は負けたのであった。
「はあ」
僕はため息をついた。
肩をおとし、猫背な姿勢になり、廃屋の中に入ろうとした。その時―
「ねえ」
女性の声がした。
僕は跳び跳ね、瞬時に後ろを振り返り、悲鳴をあげた。
「よるな、お化け!!」
手を顔の前にやり、僕は出来るだけその女性の姿を、見ないようにした。
「僕は単なる罰ゲームで……遊びじゃないんです!!」
恐怖がどんどんと溢れる。心臓の鼓動が激しくなり、僕は必死に命乞いをした。
「ちょっと、誰がお化けよ」
―え?
その声は、聞いたことがある声だった。
興奮していた頭が、急激に落ち着いていくことが分かるほどに、僕は冷めていった。
僕は、女性をみた。
「藍原?」
そこに立っていたのは、同じクラスの女子だった。
ちなみに遅くなったが、僕は高校生である。
藍原は、同級生にしては大人びた顔をしていた。
脇まで伸ばした黒い、艶のある髪。頭もよく、スポーツも万能である。
しかし、恋人がいるという噂は、一つも聞いたことがない。
それは―
「びっくりした。急に石橋がいるんだもん。それに、声をかけた瞬間、あひるのように騒ぎ出すし。てか、あの騒ぎ様は、尋常じゃなかった。あんたまさか、怖がりなヘタレ野郎?キモッ」
この性格が問題になっていた。
黙っていれば、それはそれは可愛い姫様の様だった。