たる

「そう…」

 そう言うと、藍原馬鹿野郎は、うつ向いた。
 何を考えていやがる。嫌味の一つでも言うのか、と僕は身構えた。
 不意に、藍原馬鹿野郎は、顔をあげた。
 僕の体は、ビクっとなった。どんだけ驚いたんだ、自分。
 しかし、それに到っては、藍原馬鹿野郎に何も言われなかった。
 その代わり、僕の想像とは裏腹なことを、藍原馬鹿野郎は言った。

「私が…ついていってやっても、いいわよ」

「いや、お断りします」

 一人で行けと言われたしね。
 しかし、そんな事情を知らない、藍原馬鹿野郎の顔は、みるみる赤くなり、

「何でよ!!私が行くって言ってんだから、あんたは、「はい、藍原様」と言えばいいのよ」

 何という独裁者でしょう。こんな奴と廃屋行くなら、夜の墓場で一人で踊った方がマシだ。

「何よ…その嫌そうな目は」

 知らんがな。

「とりあえず、入るよ」

 そう言うと、独裁者藍原は、僕の腕をつかみ、廃屋の中へと入っていった。

 おのれ藍原馬鹿野郎独裁者。僕はまだ、心の準備が出来てないんだよ。

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