たる
こうして、僕と藍原馬鹿野郎独裁者の、廃屋6時間の旅は始まった。
あーあ、クリスマスなのにな。
〇
中は、ひんやりとしていて、肌寒かった。
歩く度に、カツンと音が、家中に響いていた。
唯一の灯りが、懐中電灯だということで、中はあまり見えない。
そんなことは、今となってはどうでもいい。
あの、藍原馬鹿野郎独裁者が、僕の腕にしがみついているのだ。しかも、小刻みに震えているようだった。
まるで、狼に襲われそうになっている、ウサギのようだった。
―もしかして藍原馬鹿野郎独裁者も、罰ゲームか何かで、この廃屋に来たのかな。
その真偽を確かめようと、僕は藍原馬鹿野郎独裁者に、声をかけた。
「ねえ」
その瞬間、藍原馬鹿野郎独裁者の体が、ビクッとなった。
さっきと立場が逆転している。
「な……何よ。急に声かけるからびっくりしたじゃない」
よく驚く人だな、と内心ツッコンみ、僕は愛想笑いを浮かべた。
多分この暗さだ。僕の顔なんか見えないだろうけど、取り敢えず笑っておいた。
「何で藍原ば…藍原さんは、ここに来たの?」
「藍原ば?まさか、藍原馬鹿野郎って言おうとしたんじゃないでしょうね?」
「違うよ。藍原馬鹿野郎独裁者だよ」
あ、しまった。本当のことを言ってしまった。
「最低。あんたなんかと、二度と話したくない」
だったらその手、僕の腕から離して下さい。