たる

 こうして、僕と藍原馬鹿野郎独裁者の、廃屋6時間の旅は始まった。
 あーあ、クリスマスなのにな。



 中は、ひんやりとしていて、肌寒かった。
 歩く度に、カツンと音が、家中に響いていた。
 唯一の灯りが、懐中電灯だということで、中はあまり見えない。
 そんなことは、今となってはどうでもいい。
 あの、藍原馬鹿野郎独裁者が、僕の腕にしがみついているのだ。しかも、小刻みに震えているようだった。
 まるで、狼に襲われそうになっている、ウサギのようだった。

―もしかして藍原馬鹿野郎独裁者も、罰ゲームか何かで、この廃屋に来たのかな。
 その真偽を確かめようと、僕は藍原馬鹿野郎独裁者に、声をかけた。

「ねえ」

 その瞬間、藍原馬鹿野郎独裁者の体が、ビクッとなった。
 さっきと立場が逆転している。

「な……何よ。急に声かけるからびっくりしたじゃない」

 よく驚く人だな、と内心ツッコンみ、僕は愛想笑いを浮かべた。
 多分この暗さだ。僕の顔なんか見えないだろうけど、取り敢えず笑っておいた。

「何で藍原ば…藍原さんは、ここに来たの?」

「藍原ば?まさか、藍原馬鹿野郎って言おうとしたんじゃないでしょうね?」

「違うよ。藍原馬鹿野郎独裁者だよ」

 あ、しまった。本当のことを言ってしまった。

「最低。あんたなんかと、二度と話したくない」

 だったらその手、僕の腕から離して下さい。

< 7 / 22 >

この作品をシェア

pagetop