女王様と王子様
「山本さんの家族は楽しそうだね。この前行った時、そう思った」

『馬鹿にしてんの？』

「羨ましがってるんだよ」


楽しそう…ねぇ…
そんなこと、改めて考えたことがない。


『でも父親がいないと色々 不便よ』

「…それ、僕が聞いていいのかな」


藤臣の言っているのは何故父親がいないのかということだろう。
別に今更 気にしてなんかない。
隠しているわけじゃないし、構わないと思った。


『うちの父親、婿養子で母に嫁いだの。
でも、元々裕福な家で暮らしていた父にあの八百屋は我慢出来なかったみたい』


父親が出ていったのは妹の実咲が1歳になる前。
当時、まだ子供の私は出ていった父親のことが嫌いで嫌いで仕方なかった。
しかし今思えば、よくもった方だと思う。


「離婚はしないの？」

『しようにも、何処にいるかさえ知らないの。探しもしてない』

「どうして？」

『お母さんにその気がないんじゃ、私が探すわけにはいかないでしょ』

「…………」

『あの人は、まだ父親が帰ってくるって信じてんのよ』


帰ってくるわけがないのに。今頃どこかで他の女と一緒にいるんだろう。
まぁ父親のことなんて興味もないし、知りたくなんかないけど。


「…山本さんは寂しくないの？」


私の顔を覗き込んで、藤臣が優しく笑う。

どうしてそんなこと聞くのか。
答えなんて決まっているのに。


『全然寂しくないわ』


この言葉は、藤臣にどんなふうに聞こえただろう。


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