女王様と王子様

王子様と興味

──…これは、僕が彼女の存在を知った日のこと。


「好きです。付き合ってください」


高校1年生の春、体育館裏。
いかにもというシチュエーションで、目の前のクラスメイトは顔を赤らめて僕を見た。


「私、中学からずっと藤臣くんが好きで…同じ高校に合格したら絶対告白しようって思って…」

「ありがとう。…でも、ごめんね」


なるべく目の前の彼女が悲しまない断り方をしたつもりだ。
さて、次の質問にはどうして答えるか。

…告白されるのは初めてじゃない。経験上、次の彼女の言葉は、


「好きな人がいるの?」


予想通りのセリフ。
義理の姉が好きだと答えれば、彼女はどういう反応をするだろう。
それには少し興味があったが、言うわけにはいかない。
自分でもこれが本当に恋心なのか疑問なのだ。


「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

「やっぱり山本さんとの噂、本当なんだ…」

「え?」


言いよどんでいると、彼女が第三者の名前を出した。

…山本、さん?


「噂って?」

「藤臣くんと山本さんが付き合ってるって噂」


山本さん山本さん山本さん…

頭の中で知ってる人の顔を並べるが、一致しなかった。
よくある名字だが僕の知ってる山本で、同じ高校に来たのは男子しかいない。


「藤臣くん、山本さんは確かに美人だけど…」


山本さんは美人らしい。


「だけど…藤臣くんには似合わないよ」

「似合わない?」

「女子の間でも、あまり良い話聞かないし…」


山本さんのことは知らない。
しかし人の意見だけでそう決めつけるのはなんだか違う気がした。


「僕は山本さんのことはよく知らない。だけど似合う似合わないは君が決めることじゃないよ」


少しきつい言い方をしてしまったかも知れない。
そう思ったが、今更言い直しても同じだ。

僕は驚いたクラスメイトに背を向けて教室に戻った。

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