女王様と王子様
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「山本さん、これ」
水族館の帰り、僕は山本さんを呼び止めた。
そしてスノードームの入った袋を渡す。
彼女は驚いたように中を見た。
『何これ』
「欲しそうだったから。今日話を聞いてくれたお礼」
集合場所に行く途中、山本さんはショーケースに入ったそれを食い入るように見ていた。
彼女のことだから、らしくない物を買うには気が引けたんだろう。
『こんなもの、いつの間に…』
「みんながバスに乗ってる間にね。“忘れ物した”って言ったらまた入れてくれたんだ」
『悪いけど、貰えないわ』
「…?」
『これ、私の趣味じゃないの』
一瞬、意地をはっているのかと思ったが、そうでもなさそうだ。
それにしてはバツが悪そうに眉間に皺を寄せている。
「……そっか、残念。じゃあ今度別のものを…」
山本さんの持つ袋を掴むと、逆に引っ張られた。
…おかしい。いつもならさっさと袋を渡して帰ってしまうのに。
不思議に思って山本さんの整った顔を見る。
すると、言いにくそうに口を開いた。