女王様と王子様


────…



『ただいま』

「お帰り透子ちゃん!」


ほわわん


そんな擬音が似合いそうな雰囲気。
店先に入るとそんなお母さんがニッコリと出迎えた。

……そう、“店先”。
私の家は正真正銘、八百屋である。その名も“やまもと 八百屋店”。
名前そのままじゃん、というツッコミはもう聞き飽きた。
商店街の中に位置した私の家は、とてもじゃないが広いとは言えない。
全室和室だし、きっと私の見た目からこの家は想像出来ないと思う。


「お帰り、姉ちゃん」

「おかえり~!」

『ただいま 潤、実咲』


階段で二階へ上がると、
中学二年生の弟と小学一年生の妹が部屋から出てきた。
私の家族はこの四人だ。
家のことは別に隠しているわけじゃないけど、遊びに来るような友達も居ないから誰もこれが私の家なんて知らない。
……というより、隠していることなら一つ、私には重要な秘密がある。


「姉ちゃん」

『何?』

「これ届いてた」

『…!…でかした 潤!』


潤から引ったくると部屋にかけ入り、段ボールに包まれたそれを開ける。


『やっと手に入れたわ。ったく、いつまで待たせるのよ。ネット通販め』


パッケージにはイケメンが数人、そして某ゲーム会社のマーク。
これはいわゆる“恋愛シュミレーションゲーム”。またの名を“乙ゲー”という。
私の秘密はこれだった。
数年前に購入し、やってみたところ、見事にハマってしまった。
こんなものに比べれば、家が八百屋なんて何万倍もマシ。
私が乙ゲーにハマってるなんて家族でも潤しか知らないトップシークレットだ。



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