女王様と王子様
『何であんたがここに…!?』

「先生にこれを届けてくれって言われたんだ。山本さんのお母さんが上にいるから上がってくれって」

『…っ』


白い封筒のそれを藤臣からぶんだくる。
“奨学金案内”──封筒にはそう印刷されていた。


『こんなもの…!』


バシッと畳に叩きつける。


『別に明日でもいいでしょ!』

「僕に言われても。お金のことだから急ぎだったんじゃない?」

『よりによって何であんたなのよ!』

「今日は部活で残ってたし、家が同じ方向だからじゃないかな」

『何がおかしいわけ!?』


こうして話してる間もニコニコと笑っているこいつが恨めしい。


『大体ノックくらいしたらどうなの!?他人の家よ他人の家!』

「へえ、山本さんの家では襖にノックするんだ」

『な…』

「僕はちゃんと声かけたよ。ヘッドフォンをしてたから気付かなかっただろうけど」


にっこりと、学校の女子が見たら恐らく騒ぎたてるだろう笑み。
だけど今は私の怒りを増幅させるものでしかない。

こ…こいつ…!


「ふぅん、山本さんもこんなゲームするんだ」


そう言いながらテレビ画面を見て、次に私を見た。

ヤバい。もしこいつが学校で言いふらせば私の薔薇色人生は終わる。


『もしかして言いふらされたくなかったら……なんて脅すつもり?
三流の少女漫画じゃあるまいし、そんなことで言うこと聞くくらいなら、バラされた方がマシよ』


藤臣に弱味を握られたままビクビク過ごすのはまっぴらだ。
というより、私のプライドが許さない。

藤臣は驚いたような顔をしたが、すぐいつもの笑みに戻った。


「言わないよ」

『…は?』

「誰にも言わない。約束する」

『いや、私は言っていいって言ってるのよ?』

「だって秘密だったんでしょ?」

『意味が分からないんだけど。私の秘密を知ったっていうのに、利用しないの?』

「僕が言いたくないんだ」


………意味が分からない。

藤臣はじゃあ、と言って部屋を出ていった。
私はたださっき投げ捨てた封筒を見ていることしか出来なかった。

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