あの足があがるまでに
一寸先は闇
目の前でお姉さんが泣いている。肩を震わせながら。

でも俺はなぐさめることなど出来ない。
俺自身、涙をこぼすこともできない。


なんだろう、悲しいはずなのに。

悲しみも怒りも、虚しさも感じない。

これらの全てを通り越してしまったのだろう。

まるで感情がなくなったみたいに俺は遠くをぼぉっとみつめるだけ。

「っ・・・・ひっく・・・・うぅ・・・・」

お姉さんは泣き続ける。俺は死んだように黙っている。

そんな時間がしばらく続いた。
そしてお姉さんは何かを決心したような顔で勢いよく立ちあがり俺の手をとった。


温かい手だった。
それだけは感じることができた。




「ぼく・・・。行くわよ」

「・・・・・」

「病院に。」

お姉さんの表情は、事態の深刻さを物語っていた。

けど、今病院に行ったらマラソンができない。でもお姉さんはきっと、俺がなんと言おうと手を離さないだろう。


「あの・・・・マラソン、走っちゃだめですか・・・」

「っ!こ、この状況でまだそんな事を言うのっ!?進行しちゃったらもっと大変になるわよ!?」

「でも・・・・はしりたいんです。」

「私はこれでもあなたの事を思ってるのよ?そりゃあ、走らせてあげたいわよ。でも、こんな事に気づいてしまったからには見て見ぬふりなんて出来ないのよ・・・・。それに、今後のあなたの将来が今日の私の誤った判断で左右されたら、私・・・胸張って生きていけないわよ・・・・。ねぇ、だからお願い。あなたのためにも私のためにも。」



「お、俺は・・・・足がなくなってもいいっ!」





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