屋敷の主

リシェナはそっとジェイスの傷に触れた。

そして、なんだか自分でもよく分からないままに、唇を当てた。チュッ、と音がした。

ジェイスは目を見開いた。

リシェナは唇を離した。そしてジェイスの両目を見る。

「醜いなんて思いません!私にだって体にたくさん傷があります。鈍臭いので…よく転ぶし…」

リシェナは照れながら脚の傷をジェイスに見せた。

ジェイスは何も言わない。リシェナを見つめ続ける。

醜さゆえに、逃げると思った。
それならそれでいいと。この胸のざわめきも消えて、また淡々と仕事をこなすんだと。
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